霧が辺りに立ちこめ、月が隠れる真夜中の街。

外灯が薄ぼんやりと道を照らし、周りの家々も電灯が消え、人々が寝静まった頃。

黒塗りの馬車がゆるゆると道を進んでいた。



「ご主人様、今日こそ良いものが手に入るといいですね」

「そうだな・・・」



従者のような男は、封筒から案内状らしき黒い紙を出して、嬉しそうに眺めた。



「事前に貰った案内には、目玉商品があると書かれてあります。一体何でしょうね。楽しみだなぁ」


「そうだな・・・今夜も無駄足にならねばいいが」



霧の中見える外の景色は、家もまばらになっていき、木ばかりが目立つ景色に変わっていった。



「こんなところに会場があるんですか?」


「あぁ、もうそろそろ着く頃だろう」


「ほんとですかぁ?」



疑いながらも目を凝らして見ていると、霧の中に薄ぼんやりと見えてきたのは、壊れかけた薄汚い屋敷。


庭には草が生い茂り、門扉は壊れて傾き、風が吹くたびにキイキイと不気味な音を立てていた。


屋根の上の風見鶏も寂しげにからからと音を立てている。


屋敷の窓という窓は全部木で塞がれ、とても人がいる気配がない。




「今日の会場はここらしい」


「ほんとにここですかぁ・・・?また随分汚い場所だなぁ」



馬車は門の中にゆるゆると進み、やがて静かに停まった。


窓の外をよく見ると、他にも馬車がたくさん停まっていて、着飾った男女が静かに降り立っている。



『―――今夜の出物は何かしら。楽しみだわ』


『君が欲しいものなら、何でも買ってあげるよ』


『まぁ、いいの?私ね――』





仮面姿の男女が、小さな声で喋りながら馬車の傍を通り過ぎて行った。



「まぁ、仲の宜しいことで―――・・・ご主人様、さぁ、どうぞ」



男は、主人のために馬車のドアを開けて頭を下げた。