警戒しているのか、細い腕は、庇うような感じで体の前にさし出されている。

黒いもの。注視していると、それは城に近付いているようで、だんだん大きくはっきりと見えてきた。

室長の腕も、ぐぐぐと力が入っていって、少しずつ窓際から離されていく。


それに構わず、その影をじっと見つめる。

形は、まるで優雅に翼を広げた鳥のように見えた。



―――この形は・・・。

もしかして、ヴィーラ?



・・・にしては、小さすぎるわよね。

あれでは誰も乗ることが出来ない。

大きさとしては、両方の腕をいっぱいに広げたくらいしかない。


それは城の敷地の中にツィーと入り込み、迷うように暫く飛び回ったあと、テラスにある小さな柵に止まって羽を休めた。

近くで見ると、結構大きい。

キョロキョロと何かを探すように、小さな頭が動いている。



―――綺麗な鳥だと思った。

綿のように真っ白な羽毛に覆われてる。

鋭い瞳に湾曲したクチバシ。

見つめていると、ふとこちらを見た。



・・・不思議にも、目があってる気がする・・・。


その白い鳥から目を離すことが出来ずにいると、向こうも動くことがなく。

謀らずも、じーっと見つめあう形になった。

まるでガラス玉のような美しい瞳。

吸い込まれてしまいそう―――



「珍しいですわね。あれは、フクロウですわ。しかも、白フクロウとは・・・私も初めて拝見致します。でも、どうしてこんなところに・・・・」


この国にはいないはずですわ、何処から来たのかしら、とブツブツと呟いている。

室長の腕は、力は弱まってるけれど、変わらずに体の前にあるまま。



「そう。あれは、フクロウというのね?とても綺麗な鳥ね・・・」



無垢な純白の羽が、月の光を浴びて淡く輝く。

暫く見惚れていると、それが翼をふわりと広げてすぅ・・と飛び立った。

上空を優雅に飛び、何度も旋廻している。

ひとしきり飛び回って満足したのか、フクロウは飛来してきた方向に戻っていった。

来た時と逆に、黒い影がどんどん小さくなっていく。

まるで、月に吸い込まれていくみたい。



「・・・何をしに来たのでしょうね・・・」



ようやく警戒を解き腕を下ろして、室長がぽつりとそう呟いた。

訝しんでいるようだけど、あのフクロウからは嫌な気配を感じなかった。

この国の人に比べれば、鈍感だけど。

あの様子は、ここに迷い込んだだけ。そう思えた。




「月夜の散歩ではないですか?」




―――こんなに綺麗な夜なんだもの。

散歩したくなる気持ちは分かる。

私にもあんな翼があったなら・・・

今すぐにでも、あの方のところまで飛んで行けるのに――――




「ユリア様はロマンチストなんですね・・・。散歩ですか・・・そうだと、よろしいのですが」



室長は暫くの間、フクロウが消えた方向を眺めていた。