「いえ。月があまりにもキレイなので。・・・見てただけですから」

「・・・そうですか。もうすぐ満月で御座いますから―――」


そう言って外を眺める室長の瞳が輝きを増した。

ブラウンが少し黄色味がかってるように見える。


―――この子も、バルと同じように瞳の色が変わるのかしら―――


月の明りを受けて白く輝く頬、健康的な美しさを持つ横顔を見つめる。


「・・・貴女も、瞳の色が金に変わるの?」


すると慌てて瞳を伏せて、てのひらを左右に振った。

まるで見られたくないようだけど・・・。


「いいえ。私などが、そんな―――――金色は至高の色で・・・」

「・・・至高の色?」

「―――瞳が金色に変化されるのは、王族の方だけで御座います。一般の者は黄色に変化すれば良い方で。しかも、殿方のみ・・・。私のように女の身で瞳の色が変わるなど、本来はあり得ないことなのです」



細い眉が苦し気に動き、美しい顔を歪めた。

今までどんな思いで過ごしてきたのか、表情から窺える。

きっと、あらぬ中傷や蔑みを受けてきたに違いない。

優しい狼の国であっても、差別的な考えを持つ方もいるということ。

彼女はこんなに美しいのに―――


「私の前で隠すことはないわ。その瞳、とても素敵よ。私は好きだわ」


素直に、綺麗だと思った。

今、室長の瞳は月と同じ色をしている。

満月の夜にはもっと色濃くなり、黄色味が増すのだろうか。


「有難う御座います・・」


強張っていた表情が崩れ、はにかむような笑顔を見せてくれた。

その笑顔がすーと戻り唇が引き結ばれた。

淡い黄色の瞳が物言いたげに見つめる。

言葉を促すように無言で見つめ返すと、桃色の唇がゆっくりひらいた。


「あの・・・ユリア様は、王子様の瞳をご覧になられたのですね?」

「えぇ、何度か拝見しました」

「何度も・・・やはりそうですか」



再び瞳を伏せ、顔を反らしてしまった。俯いた顔が辛そうに見える。

金の瞳を見たと答えたことが、何故か室長の表情を曇らせていた。

特別な理由があるように見えるけれど・・・。



「どうか、したの?」

「いえ、何でも御座いませんわ―――月は、あと二日でまんまるになります。この景色も一層華やぎますわ」


問いかけた際、パッと上げた室長の顔はすでに普段のものに変わっていた。

それから暫しの時無言のまま一緒に月を眺めた。


流れる雲が部屋の中に影を落としたとき、室長の体が飛び退くように、隣から消えた。