そんな芸当は魔力が強くないと出来ないことだと、大臣たちは知っていた。


見上げれば真紅の瞳に見据えられている。

滅多なことを言えば、今度は自身が炎に燃されるかもしれない。


「ぁ・・・あぁ・・・」


大臣は驚愕に震え、その場にぺたりと腰を落とした。


「いいか。今後私に絵姿を献上する者は、それ相応の覚悟をすることだ。他の者にもそう伝えておけ」


すくっと椅子から立ち上がり、あわあわと震える大臣たちを残しセラヴィは足早に謁見の間を後にした。







自室に戻り、椅子に座り溜まっている書類に目を通す。

サインをし、重要な決済物には王の刻印を押していく。


一通り執務をし終えたあと、震える掌を見つめ、握ったり開いたりを繰り返した。

まるでリハビリのようなこの仕草。

数日前に力を使って以来、手が動かしづらくなっていた。


『崩壊への序章』


そんな言葉が頭を過る。



―――っ、まだだ。頼む、まだ、待っていてくれ―――



数日前、人型を通して僅かに感じた娘の息吹と肌の感触。

あの時、この者がクリスティナでなくてもいいと思えた。

愛しいと、この腕に抱きたいと、ますます焦がれ強く想った。


『我が元に来い』


考えるまでもなく、自然に言葉が出ていた。

娘は記憶をなくしたと言っていたが、それは却って好都合のように思える。

そのままで良い、私がそなたの記憶を作ろう、そう思えた。



邪魔に入った狼の強い結束。

悔しいが、あの狼の王子は強い。

あの時、最大限に気を送っていたのに、いとも容易く引き裂かれた。


アレさえいなければ、あのまま手に入ったものを・・・。

今、何処にいるかも分かっている。


娘はもう、森の中にはいない。


堅固な守りの城の中・・・ある意味瑠璃の森より厄介だ。

狼の王子よ、よくも隠してくれた。


いくら魔王と言えど、簡単には踏み込めん。

さてどうするか・・・。




漆黒の翼。


ラヴルよ、貴様はどう出る―――