目の前に立っているバルはいつもと違っていて、とても上質の服を着ている。

それはいつもラヴルが着てるものに似ていて、なんというか、まるで王子様のように見える。


―――この国の偉い人だとは知ってたけど・・・何者なのかしら。


聞くことも忘れてじっと見つめていると、困ったように顔を歪めて頭を掻きながら俯いてしまった。

何かブツブツ言ってるけど、耳に全く届いてこない。


「バル、あの・・・ここは?」


様子を窺うように覗き込んで声をかけると、バルが目の前に跪いて膝の上に置いていた手の上にそっと重ねてきた。


「独りにして、すまなかったな。気をつけてはいたんだが―――」


そう言う瞳が、少し金色がかってるように見える。

たまに見るそれはとても綺麗で、つい魅入ってしまう。


ぼんやり見ていたら金が濃くなっていき、それがくるっと一周して

「綺麗だな・・・」と呟いた。


バルは無意識なのか何なのか、重ねられていただけの手に指が絡まり始めている。

ユリアは、振り解いた方がいいかも、と考えつつ自らの恰好を眺めた。


―――うん、確かに衣装は綺麗よね・・・。


「あ、これ?・・・ありがとう。でも、私には身に余るドレスでしょう?断ったんだけど、許してくれなくて・・・」


「そんなことないぞ。とても似合ってる」



バルの金の瞳が眩しそうに細まる。

それは全く逸らされることなくじっと見つめたまま。

服装が違うせいか立派に見えて、いつもと雰囲気が違っていて、何だか緊張してしまう。

気付くと大きな手が顔の傍に伸びてきた。

空気が熱を帯びているような気がして、居た堪れない。



―――な、何か話さないと・・・えっと―――


「あ・・・あの・・バル?その、聞きたいことが・・・ある、の」


適当に声を出すと、伸びてきた手がピタリと止まり、下に降りていく。

が、手は強く握られたままだ。


「・・・何だ?何でも聞いてみろ」


「・・あ、そう言えば、身支度してくれた侍女の人達が変なことを言っていたわ。私のこと、王子様のお妃候補とかって・・・。どういうことなのかしら?バルは知ってるの?」



「あぁ、それか・・・それは、ここにお前をおくための口実だ。だから、気にするな」



握られていた手が離れ、金の瞳がすーとブラウンに戻っていく。

それを不思議な気持ちで見ていると、バツの悪そうな顔になってこう言った。


「あぁ、それと。ここにいる間、妃教育だの、礼儀作法だの、いろいろうるさくしてくると思うが、適当に話を合わせて受けてくれ」


すまんな、王妃が煩いんだ、とぼそりと付け加えた。