「大丈夫で御座いますか?」

「ぁ・・・あ・・・の・・」


恐怖のあまり舌がよく回らない。

口をパクパクさせていると、下からばぁぁん・・と何かが爆発するような音が聞こえてきた。

その音に、どきりと心臓が撥ねあがってしまい、ドキドキして怖くて何が何だか分からなくなった。


「きゃぁっ、嫌っ」と叫んで目を瞑って座り込む。


支えている都合上、パッドも付随し一緒に座りこんだ。


「おい、大丈夫か!?」

「いいか、そこを動くな!!」



叫び声が届いたのか下から声が聞こえてきた。

それが何だか聞き覚えのあるものの気がする。

けど、その人がこんなところにいるはずがない。

だってここは、あの青年の国だもの。

知ってる人は誰もいないはずだもの。


一緒に野太い声も聞こえてきて顔が思い浮かぶけれど、似た声なんてたくさんあるもの。

期待しちゃいけない。


それに、さっきから何か言ってるみたいだけど、階段の中に木霊して全く理解できない。

一緒にダダダダと重い音が階段の中に響いている。

それはだんだん近づいてきて前でピタリと止まり、息を乱した低い声が聞こえた。



「パッド、これはどういうことだ?私は、駄目だと言っておいたはずだが―――」

「も・・申し訳御座いません。・・・うっかり、しておりました」


怒りを含んだその声に、オロオロと謝罪する声が隣から聞こえてくる。



「きゃぁっ」


急に襲った浮遊感に思わず声が漏れる。

パニックに陥っていて訳がわからず手足をばたつかせていると、耳元で落ち着いた声で囁かれた。



「落ち着け、大丈夫だ。絶対にお前を落としたりしない。大丈夫だ」



「・・・バル?バルなの?」

「あぁ、俺だ」



見上げると見慣れたブラウンの瞳が優しく見下ろしていて、見知った顔に会えたことに安心したのと独りじゃなかったことが嬉しくて、バルの首に腕を回してしがみついて顔を埋めた。


――――怖かった・・・とても怖かったの―――


それに呼応してバルの腕も力が増し、ぎゅうと引き寄せてくれた。


「バル、私、怖かったの。起きたら全く知らない場所なんだもの。まわりに誰もいなくて、独りきりになったと思ったの。階段が怖くて、でも知らない人にわがまま言えなくて・・・」



堰を切ったように話すとバルは歩きながら、うん、とか、そうか、とか相づちをうっていた。

ドアを開け閉めする音がして、体にふわりとした感触が伝わり、バルの体が離れていく。

気付けば元の部屋のソファの上に座っていた。