侍女たちが消えた数分後、コンコンとドアを叩く音がした。

「はい、どうぞ」と返事をすると、ドアを開けて入ってきたのは王子ではなく、執事のような服を着た年配の男性だった。

ユリアと目が合うと、白い口髭を揺らしニコリと微笑んだ。

優しそうな人柄に見え、少し安心する。


「失礼致します。私は王子さま付き執事の、パッドと申します。ユリア様、ご案内いたします。こちらへどうぞ。みなさん居られますよ」


ドアを開けたまま立っているので、自然と脚がそちらに向かう。


「みなさん?」

「えぇ、お元気な姿をご覧になればお喜びになられます」


パッドは楽しげな声を出し、スタスタと歩いて行く。

ユリアはまだ動かしにくい脚を懸命に前に出し、なんとかあとを着いて行く。


「あの、パッドさん、何処に行くんですか?」

「いけません、パッドで宜しいです。階下の広間で御座います。少々階段を下りていきますが、高いところは平気ですか?」

「高いところは・・・苦手ではないですけど・・・」



パッドがくるりと横を向いて指差した先に、何処までも続くようなくるくると回る螺旋階段がある。

所々に光が差し込んでいるのは、それぞれの階の入口なのだろう。

遥か下に床があるのか見える。

上には続いていないため、ここが最上階だと言うことが分かった。



「これを、下りていくんですか?」

「はい、どうぞ―――」


パッドが手を差し出すので、ユリアはそっと手を乗せてドレスのすそを持ち、後に続いた。

コツンコツンと階段を下りる音が階段の中に響く。

高いところは怖くない筈なのに、体の芯がふわふわと揺れ、何故か脚が震えて止まらない。

でも立ち止まるとふらっと体が揺れ、転がり落ちそうな感覚に陥るので、なんとか勇気を振り絞って脚を動かし続けた。



―――今更下りられないとは言えないし、横にパッドがいるもの。

支えてくれてるから、大丈夫。きっと大丈夫―――


そう自らに暗示をかけ、なるべく下を見ないようにして震える体を叱咤していると、ヒールがコツンと階段の角に当たりバランスを崩してしまった。

ユリアの瞳に揺れる階段が大きく映る。


「きゃぁぁぁぁっ!!」

「ユリア様!!」



パッドがぐいっと手を引っ張り、体に腕をまわしてしっかり支えてくれた。

ふーっと大きく息を吐く音が聞こえてくる。

転がり落ちることはなんとか免れたけど、恐怖のため、とても動けそうにない。