不安に震えた声が石造りの壁に反響し、びりびりと奥の方まで伝わっていく。

すると、遠くの方で、ぎぃ・・ぱたん・・とドアの開け閉めするような音がし、パタパタと走るような音が聞こえてきた。

それはだんだん近づいてきて大きくなり、やがて目の前にリリィよりも少し背の高い侍女のような姿をした女の子が走り寄ってきた。

相当遠くから走ってきたのか、息を少し切らしている。

その後を同じ姿の二人の女の子が同じ様に走ってきた。

同様に息を切らして後ろに立った。


「遅いわよ、あなたたち。私より先に着かなきゃだめじゃない」


後ろに向かい叱りつけると、ユリアの方に向き直りにこりと微笑んだ。



「・・・申し訳ありません。ユリア様、目覚められたのですね。貴女様のような方が、その姿で廊下に出るなどなりません。まずはお着替えをなさいませんと。さぁ、早くお入りください」


部屋の中に入ると三人の侍女がテキパキと動きまわり、あっという間にユリアに豪華なドレスを着せ、髪に首に耳に腕に装飾品を着けていく。

その豪華すぎる衣装に気後れし、思わず侍女たちに声をかけた。


「待って、こんな豪華なの、私、困ります。もう少しシンプルなのはないんですか?」

「ユリア様は王子様のお妃候補だと伺っております。これでも足りないくらいですわ」

「そうですわ。もっと着飾るべきですわ」


「はい?王子様??」



・・・って、あの青年のことかしら・・・。

確かに上品そうな容姿をしていたけれど。

それよりも、お妃候補ってどういうこと?


“我が元に来い”


あれって、そういう意味だったの?


頭の中にいろんな疑問符が思い浮かび、パニックに陥りそうになる。


―――ぇっと、とりあえず、落ち着かないと・・・。

整理しないと・・・。


ユリアはめまぐるしく体の周りを動き回る侍女たちに、遠慮がちに声をかけた。



「あの、すみません。ここはどこですか?」


侍女たちは、その問いかけにピタと動きを止め顔を一瞬見合わせるも、再びテキパキと動き始める。

最初にユリアの元に駆け付けた侍女が体の前に来た時ぼそと呟いた。



「・・・ここは王都です」

「え・・・王都って・・・」


「ユリア様、口を閉じて下さい。紅が塗れません」


ぴしりと言われ「どこ?」と聞こうと開きかけた口を閉じさせられた。


そのあとも何か聞こうとすると睨まれ、無言の圧力が掛けられる。

それは、何も聞かないでくれ、と言っているように思え、ユリアは侍女たちに聞くのを諦めた。

数分後、体の周りを動き回っていた侍女たちが大人しくなり、三角形の陣形を取って横に下がった。



「では、お呼びして参りますので、このままお待ち下さい」



丁寧に膝を折り挨拶をして、侍女たちは下がっていった。



お呼びするって、誰を―――?