青空に映える白い壁、空に溶け込むかのような屋根の色。

風にひらひらとはためく三角形の旗には、狼の絵が描かれている。

ここは王都、ラッツィオの王が住む城がある都街。

そこに建つバルの住む城宮の一室で、ユリアは戸惑いの声を上げていた。



「・・・え?・・・ここは、どこ?」


目が覚めたら見慣れた無機質な黒い天井ではなく、何だかとても煌びやかな装飾が施された金色の天井が目に入ったのだ。

それは四隅で細い支柱で支えられていて、おまけに天井から薄い透けたカーテンのような布が垂れ下がっていて、ベッドの周りをぐるりと囲っていた。

それは今まで全く見たこともないものだ。



―――なんだかとても立派なベッド・・・。

何でこんな場所にいるの?

もしかして、夢を見てるのかしら―――?



ベッドの上に体を起してみると、透けたカーテンの向こうにテーブルやソファなどが置いてあるのが見える。

広そうな部屋の中はしんと静まり返っていて、人の気配は全く感じられない。


「リリィ・・・、いるの?」


声をかけた後ハッとする。



そういえば。

もしかして、私、あのまま青年に連れ去られたのかも。

そして、ここはどこかのお屋敷で。

だとしたら、ここにリリィはいないはずだわ・・・。



ユリアはベッドから降りて部屋の中を見廻した。


「え・・・?」


小さな驚きの声を漏らした後絶句してしまった。

目に入るものすべてが立派で豪華に思える。



壁に並べられた調度品には飾り彫りが施され、花柄の壁、天井から下がった小さなシャンデリア、革張りのソファ、振り返れば天蓋付きの立派なベッド。


それはルミナの屋敷にいた時よりも立派な部屋で。

自分の姿を見れば、薄青色の肌触りのいいすべすべした布地の夜着を着ている。

大きな窓の外には青い空が広がり、地面は遥か下の方に見え、数人の人が規律正しく並んで歩くのが見えた。



・・・ここは、きっと、あの青年の屋敷なのね。

外には出られるのかしら・・・。



ドアを見れば、四隅、上部、真ん中、下部、と四角く区切られ、それぞれに立派な彫刻がされていてドアノブも優雅な曲線を描いている。

それを恐る恐る握り捻るとカチャと音を立てて少し動いた。

鍵は掛けられてなく、どうやら監禁というわけではない。


そっと開けてみると、石造りの壁があり、誰もいないようで物音一つしない。


途端に孤独を感じ、不安で堪らなくなる。


あの、冷たくて暗い窓のない監禁生活を思い出してしまった。

あの時のように、今は頼れる人が誰もいない。


知らない人ばかりの場所。



「あの、すみません・・・誰か、いますか?」