女中は一瞬拒否の言葉を口にしかけたが、主人の命を断れるはずもなく、諦めたような声を出して膝を折って部屋を出ていった。

ドアのしまる音を確認し、従者が窘めるような声を出した。



「ゾルグ様、また悪い癖を――――かわいそうに、まだ生娘でしょう」

「ルーク、貴様が口をはさむことではない」


明らかに不機嫌になり苛立ちを含んだゾルグの声にハッとし、ルークは慌てて居住まいを正して頭を下げた。

額に汗が滲みでている。


「は、これは、大変申し訳ありません」

「―――で、報告とは何だ。あちらに何か進展があったのか?」



ゾルグはテーブルの上の葉巻を手に取り、火を付けた。

煙を吐きつつルークの顔を観察するように見る。

長い指の間から煙が綺麗な線を描いて天井に立ち上っていく。



「はい、例の者が侵入を果たすも失敗し、彼の者は移動致しました」

「何!?あそこに侵入した、だと?・・・一体どうやって―――」


緩やかな曲線を描いていた煙が一瞬ふわふわっと乱れた。

唖然とした様子のゾルグの指の間から灰皿へと煙が移動し、火がぐりぐりと消される。



「はい、ご存じの通り、自身は入ることは出来ません。したがって、分身を作り外部より操作した模様です」

「そう、か・・・そんなことが・・・。奴でないと出来んことだな・・・。これは、恐らくアイツでも無理だろう。で、彼の者はどこに?」


「王都、です。恐らく城に匿うのではないかと思われます」


ゾルグは窓の外を見やり、にやりと笑った。



―――なるほど、王都、か―――