「ん?私に逆らうと言うのか?いいからその可愛い口を閉じろ。今から許すのは、甘い喘ぎ声だけだ」

「そんな――――こんなこと、私、女中頭に叱られてしまいますわ。ですから・・あの、お止めください」


――――それに、ゾルグ様には決められたお方がいらっしゃる筈。

なのに、何で私を―――?


「・・・黙れ」


ゾルグの唇が次々と伝える熱に、女中は次第に浮かされていく。

漏れそうになる声を我慢し、なんとか理性を保ちつつ逃れようとする。


「あの・・お願いです・・・お止めください」



なんとか言葉を絞り出し必死に懇願していると、窓の方から――ガタン――と大きな音がした。

その音に反応し、自分への拘束が緩まったので、自由になった手で胸元を合わせながら見ると、一羽の美しい鷹が窓の桟にとまっていた。

羽を広げてついた水滴を振り払っている。



「ち、いいところで――――帰ったか」



ゾルグが呟きながらソファから体を起こした。

ふわりと桟から離れた鷹が、すーと一人の男性の姿に変わっていき、ブラウンの長髪の従者の姿になった。

まだ僅かに残る水滴を掌で払いのけ、ソファから体を起こしたゾルグに対し跪いた。



「―――お取り込み中のところ、大変申し訳ありませんでした。ゾルグ様、只今戻りました。急ぎ報告したいことがありまして、失礼を承知で窓から参じました」


従者は女中のほうを見ることもなく、淡々と話して頭を下げた。



「・・・うむ、続きは夜だ。いいな、逃げるなよ?」


女中の頬に掌を当てて妖艶に微笑み、ゾルグはソファから離れた。

女中は恥ずかしいやら怖いやらで真っ赤になり半泣きになりながら急いで身なりを整え、ぺこりと頭を下げ小走りでドアに向かった。

とにかく、一刻も早くこの部屋の中から出たかったのだ。

その背中に向けてゾルグが思い出したように声をかける。



「―――あぁ、そうだ。女中頭にはあとで私が言っておくから心配するな。それから、必ず夜にまた来い。これは命令だ、貴女は従わねばならん。分かったな」



「・・・はい、畏まりました」