・・・甘い花の香り・・・。

それに混じるのは、ツンとした刺激のある薬品のような匂い。

あたたかくて柔らかな物に包まれる感触。

ひんやりとしたものが額に乗ってる。

重い瞼を開くと、黒い天井がぼんやりと映った。



―――ここ、どこかしら・・・。

私、一体どうしたの・・・。



もぞもぞと体を動かしてみる。

途端にズキンとした痛みが体中を襲った。



―――そうだわ・・・私、ヴィーラ乗り場から落ちて・・・。

あんなに高いところから落ちたのに、よく助かったわね・・・。





「目が覚めたか」



野太い声が耳に届く。

ぎぃ・・と何かが軋む音を立てた後、血管の浮いた太い腕が伸びてきた。

額に乗ってる布が取りはらわれ、大きな手が降りてくる。

それは額と頬にひたひたと触れ「まだ熱があるな」と呟いた。


何もかもが気だるくて重い。

この人に質問したくても、唇が縫い合わされたように閉じたままで、動かない。

まるで何日も眠っていたかのよう。





「ちょいとばかし、我慢しろよ」



腕がまた伸びてきて背中を支え、頭を少し持ち上げられた

男の顔が黒い瞳に映る。

金色がかったブラウンの髪に、澄んだブラウンの瞳。

こんな感じの人、私見たことがある・・・。


ぼんやりとした頭で記憶を辿った。

そう確かあの時一緒にいた・・・。




「ほら、口開けてこれを飲め。薬だ」



細くて固いチューブ状のものが、唇を割って押し込まれる。

からからに乾いていた喉に、急に流れ込んでくる液体。

それはとても苦い味で、喉が詰まったようになって咳き込んでしまった。

咳をするたびに体に痛みが走り、とても苦しい。

男の手が背中をさすった。



「おい、大丈夫か」



「はい・・すみません・・・ここは・・・・どこ、ですか?」



やっとの思いで開いた口から、弱々しい掠れた声が出る。

自分の声なのに、他人が出したもののように耳に届く。


・・・私、こんな声だったっけ・・・。




「ここは瑠璃の森の中だ。そして、ここは俺の家。お前は森の中に倒れていたんだ。怪我してるんだから、ゆっくり休んでろ」