“ほら、見て下さい。今年も、こんなに綺麗に咲いたのですよ”


侍女の手が青白い花が咲き乱れる草原を指差した。

あたたかな光りの中で咲き誇ったそれは、とても綺麗で儚くて。

透き通るほどに薄い花弁は、少しの強い風が吹けば消えてしまいそうに頼りなげで。



“この花は、まるで姫様のようですわ。手折ってお部屋に飾りましょう。きっと心休まりますよ”


侍女は慰めるように、私の手を握ってそう言った。


“待って。それは駄目です・・・。この花は、ここにいてこそ輝けるのです。部屋の中に入れてしまったら、この輝きが無くなってしまうわ。この私のように―――だから、このままで。見たくなったらここに来ればいいのですから”


“姫様―――おかわいそうに・・・”






――――――エリス・・・?

あの花は確か・・・・。







「ザキ、慎重にな。くれぐれも、傷をつけるな」

「わかってるさ。あんたはいちいちうるせぇんだよ」





・・・ん・・・何かが頬を触ってる。


ざらざらとした感触・・・これは何・・・?




薄く開いた瞳に、綺麗なブラウンの毛並がぼんやりと映る。

輝くような金色の瞳・・・。

この姿、私知ってるわ。

この方は私を起こそうとしている。

私、起きなくちゃ。


―――痛っ・・・・―――

体が痛い・・・・腕も脚も動かない。


それに、なんだかとても寒い・・・。

私、もしかして死んでしまったの―――?


むせかえるような甘い花の香りがする・・・


ということは、ここは・・・・天国?




「おい、動くな。怪我をしているんだ。ザキ、もうやめろ。起きている」



ざらざらとした肌触りが消え、ふわっとした浮遊感が体を襲った。



「ザキ、そっちを頼む。いいか、食べるなよ」


「わかってるって。まったく俺を何だと思ってやがる・・」




落ち着いた声と不機嫌そうな声。

私・・誰かに運ばれてる。




―――安心出来る腕の中・・・


これは、ラヴルに似てるわ。


ラヴル・・・。



心地よい揺れに身を任せ、戻りかけていたユリアの意識は、再び闇の中へと誘われていった。