「ユリア、無理をさせるが・・・血を貰うぞ」

「ぇ・・・んっ・・・イタ・・・・」


急に首にちくんとした刺激が走り、少しの吸血の感覚の後、ラヴルはすぐに唇を離した。漆黒の瞳が赤く染まりかけている。


「ちょっと行ってくる。ユリアは何も心配するな。ここで待っていろ・・・少し冷めてるが、朝食を食べろ。でないと、私がナーダに叱られる」


約束したからな、と呟き、少し顔をしかめたあと、ラヴルは着替えをすまして風のように部屋から出ていった。




えっと・・・とりあえず服を着ないと・・・。

ベッドから体を起こして見廻すと、ソファの上に服が用意されているのが見えた。


何故か体が異常に気だるく感じる・・・。

貧血気味なのかしら。やっぱり。

ナーダの言う通り、食事はきちんとしないと。

ソファまでの距離が異常に長く感じた。

ふらふらとしながらソファに辿り着き、やっとの思いで着替えて朝食の乗ったワゴンに手を伸ばした。







“・・・・ティナ”




・・・?・・・気のせいかしら・・・

何か・・・声が、聞こえた気がする・・・・。




“・・・・クリスティナ”



―――今度ははっきり聞こえたわ。

クリスティナ・・・って、一体誰のこと―――?




“聞こえるか・・・私だ・・・・クリスティナ・・・”





―――誰・・・・クリスティナって、もしかして、私のこと?


この声はどこから聞こえるの?



耳を澄まし発生源を探すと、どうやらそれは外から聞こえてくるわけではなく、体の内から聞こえてくるように感じる。

頭の中で響く、地の底から響くような呼び声。

これ、私、聞いたことがある。


いつ聞いたのかしら・・確か・・・・っ―――。


一瞬、くらりと意識が遠のき、瞳に映るワゴンの上の朝食がぼやけた。


この声のせい。

この声を聞くと、必ず変なことが起きる。


駄目、この声を聞いていたらいけない。




体の中から、ラヴルの声が聞こえる。


“駄目だ、ユリア、この声を聞くな”



せめてもの抵抗に、耳を塞ぎ、瞳を閉じる。

体の中で二つの声がせめぎ合うが、ラヴルの声が小さくなり遠ざかっていく。

やがて聞こえるのは呼び声だけになった。



“クリスティナ・・・こちらに来い・・・”



“・・クリスティナ・・”




違う・・・違うわ!

私はクリスティナなんかじゃない。