私の足は駅へと向かっていた。
 もう時間は9時55分。
 走れば10時には間に合う!
 休むことなくひたすら走り続けた。
 駅に着いた後も必死で奏を探した。
「瑞歩!」
 焦ってオロオロしていた私の腕を掴んできたのは奏だった。
「奏・・・!」
 息が上がって声が出ない。
「大丈夫?なんでそんなになってんの?」
 奏は笑って私の背中をさすってくれた。
 こんなに優しい奏を失うのは嫌だな。
 ずっと前から思っていた。
「ちょっと・・・いろいろあって・・・遅れちゃった・・・。ごめん・・」
「いいよ。間に合ってるし。ていうか、10時過ぎてもいいのに・・・」
 私は自分で胸をさすって落ち着かせた。
「私、ずっと奏と居たかった。」
「うん・・・。ごめんな。」
 喉まで来ていた言葉は電車のベルの音で詰まってしまった。
「早く行こう!」
 これから私は奏の家へ行く。
 電車に乗ってから私は何も言えなかった。
「・・・今、家何もないからね。」
 奏は笑いながら言った。
 そうか、奏は今日であの家を出るんだ。
 あんな立派な家を捨てちゃうんだ。