「泣かないで・・・」
 なんて優しい温もりなんだろう。
 私は落ち着いて椅子に座った。
「落ち着いた?」
 彼はそう言って私の頭を自分の肩に寄せてくれた。
「そういえば名前、聞いてなかったね。」
「あ・・・。瑞歩・・・。」
 素直に言えた。
「瑞歩・・・。良い名前じゃん。俺は奏。」
「奏君か・・・かっこいい名前」
「呼び捨てで良いよ。」
「分かった。」
 私たちはお互いに名前を呼び合った。
 奏が私の名前を呼ぶと何だか安心できた。
 私にはもう、奏しかいないよ。
「ほら、涙溜まってるよ?」
 奏がまた私のことを抱きしめてきた。
「え・・・私泣いてなんか・・・」
「あはは。なんちゃって」
 抱きしめたかったのかな・・・。
 そう思うと顔が熱くなった。
 でも・・・こう簡単に抱きしめられちゃうと、遊びなのかなって思う。
 淳平みたいに。
 遊び・・・そう考えるだけで淳平がどんどん嫌いになっていく。
 淳平は何もしてくれなかったもんな。
 抱きしめてもくれなかった。
 手も繋いでくれなかった。