しかし、次の日の朝になっても、乗船の順番は回ってこなかった。それどころか、昨日以上の人と車がごった返している。テレビで見る限り、世の中はすごいことになっているのに、俺は、なんてのんびりしているんだろうと、欠伸の1つも出た。

 とりあえず、携帯をとって、家族に電話してみる。

「あ、もしもし? 俺やけど…」

「何? 大丈夫なんやろ?」

 相変わらず冷たい妻だ。

「あぁ…まぁ。そっちは?」

「昨日電話したやん!」

「子供は? 今、何してる?」

「忙しいし、また夜にして!」

 ガチャッ。プー、プー、プー、プー……。

 午前7時15分……まぁ、仕方ないか(笑)。……昔は……、その、気の強いところが良かったんだけどなぁ……。

(それにしても……今から何するよ?)

 結局その昼間はだらだら過ごし、夜になって、ようやく乗船の順番も近づいてきた。

 トン、トン。

 車のドアを叩く音。

(あれ……順番まだやしなぁ……)

 そう思いながら、サイドウィンドを下げて、下を覗く。

「あの……すみません……」

 そこには、薄汚れたトレーナーに髪の乱れた女と、その娘らしき少女が立っていた。

「……何?」

「あの……ちょっと……」

 全く意図が見えないが、相手が女(しかも結構美人)なので、ドアを開けて下に下りてやる。

「あの、一緒にフェリーに乗せてもらえないでしょうか」

 よくある。いや、こんな見ず知らずの女に頼まれることは決してないが、彼女や家族を乗せて、トラックごとフェリーに乗ってしまってそのまま車内の仕切りカーテンの中にいれば金が浮く、ということは俺自信も経験があるし、珍しいことではない。

「いやまぁ……それは……かまへんけど……」

「向こうに、どうしても急ぎの用事があって……」

 ならなぜ、自分で金を払って乗ろうとしないのかは分からないが……きっと、それなりの事情があるのだろう。

 俺は軽い気持ちで、母親と娘を乗せた。娘は高校生くらいか……。金髪のわりに、終始俯き加減だが、スレンダーな美少女。母親の方は、天災うんぬん疲れ果てているのか、長い髪の毛を1つに束ねるも、乱れており、やつれた白い熟女(40歳ってとこか?)、という印象だった。

 さて、車を船中につけてからは、人通りが少なくなってから客席へ上がった。そのつもりだったのか、すぐに、シャワーを浴びたい、という娘にシャワー室を案内してやり、母親と2人で窓際の席へ座った。

 ほどなくして、まだ髪が濡れたままの娘が出てくると、次は母親が代わって席を立つ。

「コーヒー飲む? それとも、ジュースか?」

「えっ……」
「かまへんねん。ジュースくらい(笑)」

 娘は素直に「コーラ」と口を開き、そのまま俺は自販でコーラを一本買ってやった。

「ほなここ座っときな。俺ちょっと電話してくるし」

 俺はコーラを飲む娘を放置し、母親の後を追った
 コンコン。

 軽く、女子シャワー室のドアを叩く。このドアからは中が全く見えないが、時間からして、母親は既にバスルームでシャワーを浴びており、慌ててバスタオルを1枚巻いて、脱衣所のドアを少し開けたようだった。

「ちょっと失礼……」

 俺は素早く、その隙間に入り込む。その時の、母親の顔色といったら、なかった。

「……あ、あの……!」

「奥さん……で、ええかな? あのな、そんなん、ただでこんなことしてくれる人なんか、おらへんよ?」

 俺は、硬直する母親にさっと腕を伸ばした。抵抗する暇もなく、簡単に1枚のバスタオルは下へ落ちる。

「ちょっ……や、めてください……」

 慌てて女は、タオルの上へしゃがみ込む。

「ええ体してるやん♪ しかも、着やせするタイプ?(笑)」

「なっ……なんなんですか!?」

「ええやん、お礼のつもりで。俺は別に娘の方でも良かったんやけどな。ちょっと後味悪いやろ? ……いや、そんな怖い顔せんでも(笑)」

 女は、唇を噛み締めて、きつく俺を睨む。

「声出さんと……、俺の言う通りにしたら、はよ終わるし、な?」

 俺は女の背後から忍び寄ると、軽く、触感をチェックする。

 想像以上に聞き分けの良い女は、すぐに体の力を抜いた。本当に、時間はない。早くしないと、娘の方が不審に思ってしまう。

「奥さん……、ダンナは?」

 後ろから、手で柔らかな肉をつかみながら、耳元で訊ねる。

「はやく、に……り、こんして……」

「早くって、いつ?」

 俺は、女に喋らせながらするのが大好きだ。女によっては「うるさい!」と罵られたこともあるが、この年になると、大体どういうタイプが自分の言いなりになってくれるか、分かるようになる。

 俺は、更に指に力を込めながら、続ける。

「……、じ、じゅうねん……くらい、まえ……」

「ふーん……」

 やはり、時間が気になる。俺は、手を下にずらして、先を急いだ。

「まさか、10年ぶりってことはないよな?」

顔に似合わず、なかなかの反応を見せた。

「壁に、手ついてよ。そこそこのやる気出してくれたらええし」

 細い体が、一瞬こわばったかと思うと、すぐに溜息が漏れ始めた。

「……いつくらい? いつくらいぶり?」

 流れは実にスムーズだった。それよりも、女の方が本気っぽくなってきていて、その期待に応えられるかどうか、若干、不安になってくる。

「……、ご……ねん…かも……」

「よー我慢したやん(笑)」

 どうやら、この言葉なぶりが、更に女を高揚させているようである。俺は、一度無言で動いて力を抜かせ、先手を取ってから静かに相手の出方を待った。

「……どう? 5年ぶりの味は」

「……いい、かも……」

 年上の、熟女、しかも、×イチ、5年ぶり……。

(……早くしないと……でも、もうちょっと楽しみたい……)

 俺の中が、いや、俺自身が葛藤する。この、欲を抑えながらも、レベルの高い快感を維持しているときが1番気持ちがいい。

「奥さん……、こうなること、予想してた?」

 さあ、ラストスパート。手に力を込めて、身体を動かせる。

「……い、イヤッ!」

「静かに!」

 細い腰を容赦なくつかんだ。

女は必死で声を我慢しているようだが、そうされると逆に、我慢せず乱暴にしたくなる。

「何や、期待通りになってよかったやん」

「言うてみ? 俺にしか聞こえへん。どんな想像してたんや」

「恥ずかしがっても、バレてるよ(笑)。身体が完全に応えてる」

 女の白い顔が、真っ赤になる。それを見ただけで、つられて、身体まで熱くなった気がして……。

 合図を出すと女は切なそうな声を出したが、仕方ない。タイムリミットだ。

 5年ぶりの余韻に浸っているのか、身体を離しても、女は放心した表情で荒い息をついている。

「……はよ洗って着替えや。娘が、待ってるで」

「あっ! むっ、娘にはっ……!」

「誰があんな大衆の中ですんねん(笑)」

 俺はそれだけ言うと、ドアを閉めた。

(う~ん……、まぁ。年のわりに……、という程度か。どせなら、娘の方が面白かったかもしれへんな……)

 通路を歩いていると、娘がこちらに向かってきていた。慌てて時間を確認。あれだけ気をつけたはずなのに、20分以上も経ってしまっていた。

「あの……お母さん……」

「今出てきてたけどな、なんか、タオル忘れたゆーて、取りに戻ったわ。コーラは? もう飲んだ?」

「あ、はい……。ありがとうございました」

「ええねん、ええねん。ジュース一本くらいで(笑)。それより、腹減ってへん? オッサン、腹減ってんねや。何か一緒に食おか?」

 その後、母子とは何事もなく別れた。交換条件のシャワー室での、一時。

(ちょっとええ思い出やな……)

 これで、誰にも喋らなければ、物語が少しは美化されたのかもしれないが、酔うとついつい、口に出てしまうのが悪い癖だ。

 まさか、10年経っても、同じ自慢話を、若い女の子にまでしてしまうとは、全くもって情けがない俺様である。

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