重い脚、重い手を強引に動かして、扉の前にたどり着く。

グラースが鳴らしますよ、と声をかけたのに口内の出しても出してもひらすら溜まる空気を吐き出し、うなずく。
一瞬で表情を引き締め、前方を見据えた。

グラースが玄関横の呼び鈴を鳴らす――と、ほぼ同じタイミングで扉が開かれた。
明らかに計ったようなタイミングだ。


「ようこそ、ローズ様。お待ちしておりました」


ぴし、と一斉に玄関ホールに並んだ執事・メイドが頭を下げる。

それを一瞥し、ローズは手前にいる壮年の執事――記憶をたどる限りこの家を取り仕切っているはず――に声をかける。


「ご苦労。カシス・ヴィオランドの娘、ローズです。先日から世話になっている義兄を迎えに来ました。連絡は届いているでしょう?」

「はい、ローズ様。それなのですが、当主があいさつしたいとお待ちしていますので、先にご案内してよろしいでしょうか?ブルー様はまだ手が離せないようですので」

「いいでしょう。ついでに後ろのグラースを、義兄のところに連れて行ってもらえる?」

「かしこまりました。それでは、ご案内いたします。君は、彼をブルー様のところに案内しなさい」

「はい」

そこまでを一気に愛想ゼロで終わらせ、あくまで紳士的だが内面をうかがう余地を一切持たない執事の案内で屋敷の中を歩き出す。

すれ違うごとに、使用人が頭を下げる。
あくまで歓迎ムード。あくまで穏やかに。
まるでとってつけたかのような、仮面的な統一感のある礼儀正しさ。
それすらも。


(ああ、胸クソ悪い胸クソ悪い胸クソ悪い)