その屋敷を目の前にすると、これでもか、といった具合の広さにまず言い知れない圧迫感を覚えた。

国の多くが水であふれているこの国は、すぐに洪水が起きて道が水没する。時には家屋にまで浸水するほどだ。
それを避けるために高く設置された玄関。
まずこの屋敷で一番に目が行くそれは、他の人家とは比べ物にならないほど巨大だ。そこにたどりつくまでの地面から続く階段も、その手すりも、この国では見られない美しい細工が施されている。
ローズはそれが、自分が世界の文化で学んだ異国のものと一緒だ、と思うと同時にまたもや本家に対する嫌悪感が増した気がした。

更にその屋敷を豪奢に見せるのは、壁だ。
塗り立てというわけでもないのに、どこからどうみてもまごうことなき純白の白。シミひとつないそれは、毎日きちんと手入れが行き届いてます、と自己主張している。

改めて――というよりはかなり久しぶりにその巨大で華美な屋敷を見回して、ローズの口から重々しい空気が漏れた。


(だから、嫌いなのよ)


とても口にする気にもなれず、心の中で毒づいた。

ローズにとって、その自己主張の激しすぎる屋敷は、嫌で嫌で仕方なかった。
まして、そこにいる住人たち――そこまで意識を向ければ、足がより一層重くなった。

今すぐ帰りたい思いをなんとか胸のうちまでしまいこみ、ローズはグラースとともに玄関階段をのぼった。