ローズの怒りのメーターは、確実に振り切れようとしていた。

またもや経験からそれを察したグラースは、慌てて口を開いた。


「は、はい、もちろんです。ですから船の上で立たないで下さい、ローズ様っ」


まずは転覆の危機を退けようと、グラースはローズを見上げた。
その作戦は、しぶしぶと腰を下ろしたローズによって、なんとか成功を見た。

落ち着きを取り戻したグラースは、続ける。


「本家は、確かに我々使用人にとってもそう好ましいところではございません。しかしながら、あそこはブルー様の本宅でございます。お優しい気持ちでお迎えに行ってくださいませ。きっとブルー様も喜ばれますよ」


そこまで言い切ったグラースは、ローズがじとーっと自分を見つめているのに気付いた。
冷や汗が流れる。

ローズはグラースにとっては、自分が使える家のご令嬢である。容姿も優れているし、国一番ともいえる大貴族の中でも飛びぬけて金をもつ主の教育を受けたローズは、知識も優れている。
しかし、彼女の特徴といえる気性の荒さは、天下一品。
戦場でも生き抜けそうなほどの気迫でもって、こちらをにらむその視線は兵士のもつ武器とそう変わりない。

それを一言で言えば、その視線で人が殺せそうだった。


「ロ、ローズ様?」


ひきつった笑顔でローズに声をかけると、彼女は笑みすら浮かべずその視線を格段に物騒なものにして話し出す。