「どうしてこの私が、本家に行かなきゃならないのよっ!?」




若い女の声が、広々とした大河にヒステリックに響き渡った。

その声に反応して、周囲の水面が大きく円を描いて広がっていく。そして、彼女をのせた船を揺らがせる。
彼女の連れは、驚きのあまり船上で転倒した。


「ロ、ローズ様、お、お、お、落ち着いてくださいっ」


自分が落ち着いていないというのに、彼女・ローズの連れである従者・グラースは慌ててなだめる言葉を口走った。

ローズは怒りの矛先を見つけた。
たまりにたまり、積もりに積もった怒りを、その標的に向かって吐き出した。


「何よ?私が悪いっていうの!?悪いのはお父様よ、お父様が手前勝手にのたまいやがったのよ!いくらお兄様の帰りが遅いからって、普通私に行かせる!?私の目の前に、従者という名の、ご立派なまごうことなき使い走りがいるっていうのに!!それなのにこの私を使う、ていうのをどう思う?間違いよね?そうでしょ?ね、グラース!!」


ほぼ脅迫まがいの、鬼気迫る勢いで問いかけをする。

グラースは彼女のあまりの気迫に、返答することができなかった。だが、答えない後がもっと怖いのを経験で知ったいたので、何拍かおいて勇気を蓄えてから「全くその通りで」と泣き声まじりに言った。