「ああああああ!ローズ様、中をかき回さないでくださいっ精密機械もあるんですよっ」


「どうせお父様がもってきたいわくありげな異国の機械でしょっ。壊れたっていいわよ!今必要なのは通信機だけなんだからっ」


グラースの静止を振り切りほとんどの荷物を部屋にぶちまけた頃、ようやく目的のもの――ペン型の通信機を発見した。

これはローズの父が怪しげな貿易商から買い取った異国の品で、しくみはわからないが、同じものを持つ者同士であれば遠く離れていても会話をすることができるという、不思議な道具である。

初めて目にした時は眉唾だったが、何かと外へと出ることの多い父と何回かこれを通じて会話をするうちに、気づけば便利道具として移動時には必須のものとなっていた。


ローズはペン先を軽く振り、先から針状のものを出させた。
どうやらこれで、何かを受信するらしい。


それから、頭にあるノック部分を押す。
これで相手に通じるようになっているのだ。


ローズは側面にある穴が開いた部分を耳にあて、ノイズに耳を澄ました。


間もなく相も変わらずこ憎たらしい、健康的な紳士の声が聞こえてきた。


「おやおや、どうしたのかな我が愛娘?もう私が恋しくなったのか?」


ローズは一瞬、本気でペン型通信機を折りかけた。


「な~に~が“恋しくなった”よ!!誰のせいでこんなとこ来る羽目になったか、わかっているの!?」


「やー、相変わらずローズの声は元気だな。仕事で疲れた体によく響く」


「バカにしてるの!?」


「ははは、ローズは今日もお怒りだね」


「誰の所為よっ。さっさと仕事片づけて、ついでに今すぐ私を家に連れて帰ってほしいわ!こんなところ、もういやよっ」



ローズが怒りにまかせて声高に言うと、二、三秒の沈黙があった。

一瞬壊れてしまったのかと不安になったが、すぐに声がした。


「…ローズ」


返ってきた声に、耳を澄ませれば。



「すっきりしたかい?」

「父様~~~~っ」


更に怒りを掻き立てられた。