ローズが答えると、兄は一秒だけ表情をなくして、しかしまたすぐにいつもの笑みを作った。


そのまま、ローズの頭を撫でる。


いつもなら安らぐその感触に、心はなぜか波立ったまま凪を迎えない。


(ダメ、なんだ)


それがわかって、ローズは息を小さくはいた。



「この話はまた今度でいいわ、兄様」


ローズがそういうと、淡い笑みが返された。


そのタイミングで、まるで空気をかえるように扉がたたかれる。


「夕食の準備ができたそうです」


扉の向こうから届いたのは、従者の声だ。


「わかったわ。ありがとう、グラース」


返事を返し、ローズは兄を見上げた。

促すように、首を傾ける。


「行きましょう、兄様」



ブルーは頷いて、歩き出す。

その背中をおいながら、ローズは少しだけ目を伏せる。



(早く帰りたい)


こんな気持ち悪いところ、さっさと出てしまおう。

そうすれば。


きっと何もなかったように、いつもの日常に帰れる。