「もう、いいわ。夕食まで下がって――いや、お兄様の見張りをしてちょうだい」


ローズの言葉に、先ほどまで頭を下げていたグラースは訝しげに顔を上げた。


「みは、見張り…ですか?」

「そうよ。お兄様がちゃんと明日私と帰るように、気が変わらないか見張っといてちょうだい。私は少し睡眠をとるから、夕食の時間に起こしにきて」


目の前の従者が未だに戸惑った様子の顔をしていたので、ローズは口を開く。


「お父様のせいでろくに寝てないから、眠くて仕方ないの。だから、よろしくね」

「…はあ。わかりました。では、失礼いたします」


頭を下げると、グラースは部屋を後にした。


その気配が遠ざかってから、ローズは長く息を吐いた。

ゆっくりと重い足を動かしてベッドに近寄り、そのまま横になる。
ひんやりとした水の心地。
この国名産の、ひんやりさが売りの素材をたっぷりつかった寝具だろう。各国でも、愛用者が絶えないという。


その冷たさに沈みながら、ローズは体中にしみこむような毒素を必死に解毒する。


大丈夫だ、と繰り返す。
何度も。落ち着くまで。


気持ちが落ち着くとともに、ゆっくりと睡魔がやってきた。

逆らわず、ローズはそれに従うことにした。
睡魔は確実に、ローズの心をいやしてくれるだろうから。