用意された客室に入ると、グラースが部屋を整えていた。



「……グラース」

「あ、ローズ様」


ローズの存在に気づくと、グラースはあわてて頭を下げた。

それから視線を彷徨わせる。きっと問いただしげなローズの視線に、耐えきれなかったのだろう。


「あ、の…少し、部屋のほこりが気になったので…」


(…なんて言い訳してんのよ。本家のメイドが、そんなぬるいミスをするはずないでしょうに)


ローズはその様子で、グラースの本意が察された。


通常この屋敷のメイドが仕事でそうしているだろうけれど、ローズはこの屋敷のすべてを嫌悪しているのでグラースが気を回してわざわざ自分で掃除でもしてくれたのだろう。二度手間だ、ていうのに。


ローズは少しだけ心が癒される心地がした。







「ありがとう」



ローズが素直に感謝の言葉を述べると、グラースは一度だけ目を開いて、すぐに頭を下げた。



「もったいないお言葉です。ローズ様の気持ちが晴れたのなら、私にはそれだけで十分です」


ずるいなあ、とローズは感じた。


(やっぱり、どんな情けないやつでも、お父様の従者だわ)