そのことを一番気に病んでいたのは、本家の当主であった。

彼は、その男の双子の弟にあたる。


「あいつは何をしているのか」


彼はぽつりとつぶやいた。
その独り言に、誰の返答も来ない。たとえ聞きつけたとしても、誰にも答えようがないだろう。
その多くが、下心付きであるのだろうから。

彼は一つため息をつき、口をきつく閉じた。
しばらく考え事をしながら、この思い時間をどうにかやり過ごそうとした。しかし、それはそう効果的でもなかった。
何を考えても、どのみち思考はここまで舞い戻ってくるのだ。

沈黙の末、彼はその場を一度立ち去ることにした。
周囲の重すぎる空気も、当主である自分の反応に対しての意識も、すべてこの場で時間をつぶすのには邪魔であった。まして、彼らの第一の待ち望むものが、産声ある空間では。

重い足取りで玄関近くの廊下へ歩いていく。
その途中、足を止めて窓際によった。
そうして外を眺めていると、やがて暗い景色の向こうから微かな赤色が見えた。次第にそれは、ランプの形を象っていく。
それは彼にとって、何度か見たことのあるランプの形だ。そう、彼はその形を、待ち望む男の屋敷で何度か見たことがあった。


待ちに待った兄の到着――。


「来たか…!」


神妙だった顔立ちが一変し、彼は兄を迎えようと玄関先へと駆け出した。