「ローズ。そんなにここが、嫌いかい?」


ブルーが静かに問いかけると、そろそろとローズは目を合わせた。
その目には、やはりそれまでの覇気がない。
むしろ、深くまで沈んだ時の、湖底の色のようだ。


「………だって」


震える声で、彼女はしゃべる。


「本当に嫌なの。気持ち悪いの、ここ。空気が痛い。嫌な気持ちになる。この家の連中は私を嫌ってる。その思いが屋敷にあちらこちらにわき出してて、私を攻めたててくる。気を張っていないとすぐに押しつぶされそうで…だから嫌。ここは嫌。苦しい…」


言葉にすればするほど、その感触は余計リアルになる心地がして、ローズはブルーの襟首をつかんでいた手の力をぬいて、そのままその胸に縋り付いた。
自分を追い詰めない、攻めたてない何かの温もりが、ほしかった。

そんな彼女の心を慰めるように、ブルーの手が優しくローズを頭を撫でる。
ローズは目を閉じた。

優しい、兄だ。



しばらくそうやって彼女を宥めてから、ブルーはゆっくり口を開いた。


「ごめんね、ローズ。でも、これで最初で最後だから。今回だけだから、我慢して。明日になったら、一緒に帰ろう」


そっと離された先で、自分を見下ろす優しい眼差しを受け止め、ローズはそっと目を閉じた。

心がさだまってから、目を開いて決して顔色の良くない顔をあげる。