「お久しぶりです、当主様。ローズ・ヴィオランドです。義兄の迎えに参りました。とても、お世話になったようで」


視界の端で執事が消え、扉がしまるのを確認してからローズは口を開いた。


「久しぶりだね、ローズ。ブルーのことなら、お構いなく。ここ数日、とても熱心に勉強していたよ。おかげで少し弟が生きていたころを思い出した」

「…」

「それに、ローズも久しぶりに本家にきてくれてうれしいよ」

「それはどうも」


当主の柔らかな眼差しに対し、ローズは冷ややかな態度で返した。

この屋敷の住人は、その陰湿さを巧みにその優美さの中に隠しこむ。
友好的で、平和。
何も知らぬものならば、誰でもそう思うだろう。

しかし。


(実際のところは、どいつもこいつも信用ならない。いや、むしろこの人は完璧に隠しこみすぎて、怖い)


ローズはぎゅ、と自分の前で重ねた手を握る。

そうでもしなければ、揺らいでしまうような気がした。
それだけ、当主の空気は温和すぎた。

あくまで、表面上は。