それは、雨音の激しい日だった。


連日続く風雨は一層激しく、水地の多いその土地の大半では、家屋の床下まで浸水を起こすほど記録的な数値をはじき出すほどであった。

雷鳴を耳端にとらえながら、その屋敷は緊迫した雰囲気に包まれていた。
それは、ある時を待っているからだった。

その屋敷は、水に囲まれたその国の土地の多くを所持する、貴族の本家の屋敷だった。小高い丘に作られたその屋敷は、浸水の被害は免れている。しかし、連日の雨で周囲の道はぬかるみ、平時であれば緑あふれる周囲の風景も、今は土気色に染まっていた。

その日、その屋敷にはその血を引くほとんどの者が集まっていた。
それもそのはず。
今、その屋敷で、新たな生命が誕生しようとしていた。
その生命の持ち主は、一族で最も金を持つ男の、子となる。勿論、本家の子供ではない。しかし、引き継ぐ可能性はもっとも濃厚である。今の当主に、子がいないからだ。


屋敷にいる者たちは、みな釈然としない心持でいた。
それは、その子供の親であるその男が、未だに屋敷に姿を現していないからだ。急な仕事が入り、片づけ次第ここに向かうという連絡があったのは数日前。それから、一切の音沙汰もない。いくら天候に原因があると予想がついても、今まさに自分の子供が生まれようとしているのにも関わら現れないことに、彼らは辟易していた。

彼らの胸の内に巣食うのは、決してその子供が当主の座につくかもしれない――その懸念のみにつくわけではないからでもあった。