~ハル視点~
「俺、紺野優っていうんだ。ヨロシクな!
」
目の前の男の子はそう言って笑った。
うん、知ってるよ君のこと。
君は私のこと覚えてないと思うけどね…。
「…妃ハル、です」
私は聞こえるか聞こえないかくらいの声で
名乗った。私を知ってることを期待して。
「その制服…桜ヶ丘高校ですか?」
「え、あ、うん」
「へぇ…」
桜ヶ丘高校は私の通う学校。
今はなかなか行けてないけど…
あぁ、みんな元気かなぁ。
「その、妃さんってどこの高校通ってるんだ
?」
「…ひみつ」
「!?…教えてくんねぇの?」
「まぁね」
覚えててくれなかった人には教えてあげな
い。
そう言えたらどれだけ楽か…
ただ、自分で思い出してくれたらいいな、
思い出してよと心のどこかで願っているか
ら自分からは言ってあげないんだ。
でも…
「…もうすぐわかりますよ」
そう、私はもうすぐ学校に行けるようになる
から。
「?」
紺野君は訳がわからないといった表情で私
を見つめている。
「…そろそろ行った方がいいのでは?」
「え…あ、やべっ!?もうこんな時間だ」
時間を指摘してあげると急に焦った表情に
なって慌てている。
「…フフ」
あの頃と変わってないな、と思うと自然と
笑みがこぼれる。
すると、さっきまで慌てていた紺野君はふ
と動きを止め私を凝視した。
その顔はみるみるうちに朱をさしてきて
やがて真っ赤に染まってしまった。
………私、何かしたかな?