榊は胸ポケットを上から探ってから、
「タバコ、持ってない?」
「……あるけど」
 夕貴は、セブンスター一本と、火のついたジッポを差し出した。榊は無言で受け取り、当たり前のように、煙を吹く。
「普通さ、そういう時、ありがとうとか言わない?」
「ああ、ありがとう」
「遅ーんだよ!! ……ったく……まあ、あんたが絡んでないのならそれでいいんだけど」
「俺がどうやって絡むんだよ」
「だから……借金背負わせるとか」
 榊は珍しく笑った。
「あいつに借金背負わせて働かせようとする奴よりも、自分の女にして閉じ込めたいと思う奴の方が遥かに多いと思うけどね」
「あんたはその少数派の方だろ」
「そう見えるんなら残念だな……。けどだからって自分で二千万も借金する理由が分からないのは確かだけど」
「……」
 夕貴はもう榊に用はない、と別れを切り出した。
「もし話す機会があったら、俺も心配してたって言っといて」
 なんとも軽い、榊の言葉に夕貴は
「自分で言え!」
 と、大声で吐き捨ててから、車に乗り込んだ。
 あれから榊とは連絡を取り合っていない。
 多分、香月のことだから、明日明後日にはあいつに会いに行くだろう。そうしたらまたあいつは、甘い顔をして、優しく香月に……、そう、まるでなめるように柔らかく包み込み……やめよう。榊にも常識的ないいところが、きっとあるはず。