風間は頭の中が香月のことでいっぱいなまま、出社することになった。朝一にしては、かなりパンチの効いた会話であった。
 香月は、素直で健気で儚く、すぐにでも折れてしまいそうであった。
 社長室に入ると、いつもより早く、既に巽が出社していた。
「おはようございます。今朝、香月さんの様子を見て来ました」
 何も断らず、すぐに話題に移る。
「だいぶ参っていただろう」
「いや、もう……」
 風間はそこで一度言葉を切った。
「すみません、独断でしたが、帰ろうと言いました。それくらい、憔悴しきっていまして……でもそれとは逆に、絶対に借金を返さないといけない……別れた人にお金を借りておくままにはできないと、強い意志を持っていまして。
 今日は日雇いの仕事を探す、と……。
 あとそれから。一番驚いたことなのですが、避妊の手術をしたと言っていました」
「……」
 珍しく巽の表情が落胆した。だが風間はそれに驚かなかった。彼も同じくらい、その事実に落胆したからだ。
「客をとらされたり……それで妊娠が怖かったのだと」
「……あの日、追いかけるべきだった」
 巽はデスクに肘をつき、目を閉じた。仕事でもこんな表情を見せることはない。
「ボス……、行ってあげてください」
 巽はくるりと椅子を回転させて、仕事を放棄した。
 大きな窓から見える空はどこまでも青く、今のこのくすんだ気持ちを映すことは、決してない。