「辛かったと思います。今までの香月さんの生活からは想像もできない環境だったでしょう」
 言いたいことがたくさんあった。
 こんな生活嫌だ。
 エレクトロニクスに戻りたい。
 あの、皆ではしゃいでいた頃に戻りたい。
 皆が、皆が何も不安でなかったあの時に戻りたい。
 それから、それから……!
 でも、全部できない。
 全部……一つずつ、壊れてしまったではないか……。
 玉越が会社を出て、西野が事故に遭い、最上も離婚した。
 涙は溢れ、溢れて、止まることを知らない。
「……大丈夫じゃないみたいですね……。私は、ボスに頼ればいいと思いますよ。ボスも、それを望んでいると思います」
 言えることがようやく見つかって、しゃくりあげながら答えた。
「わたしっ……は……、別れ……たんっです……だからっ……」
「そんなこと、関係ないんだと思いますよ。人として、大切にしたいと思ってるんだと思います。でないと、わざわざここを用意したりしないでしょう?」
「けどっ……、私っは……」
「借金は完済できるように既に準備しています。水野という男とも、店とも話しはついています」
「けどっ……」
 香月はその場になだれ込んだ。風間も、その体を支えるために、しゃがんでくれた。高価であろうスーツは涙で汚れたが、それを気に留める余裕はなかった。
「……帰りましょう」
 風間は真剣な声を出す。
「……そんなわけに……行きません……。私は今日、日雇いの仕事を探して、働かないといけないんです……。でもそんな仕事、どんな仕事があるのか分からないけど……」
「……」
「……私、まだ若いから……。いくつか掛け持ちで仕事すれば……、頑張れると思うんです」
 涙はまた流れ落ちる。