結局、その当日からすぐに巽が手配したアパートに入って布団一枚ない、ただの床でバックを枕にして寝た。飲み会でもないのにそんな場所で寝たのは初めてのことで、起き上がると背中がとても痛かった。気持ちが随分楽になったわりに、眠ることはできなかった。
 朝日を見るなり、溜め息が出る。
 今日から、新しい仕事を探さなければならない。
 何がいいだろう……。今すぐ現金がない以上、日雇いの仕事がいいに決まっている。
 しかし、洗面所の水道で顔を洗っていて気づいた。そうだ、まず今日の朝ごはんがない。朝ごはんどころか、昼ごはんもない……。
 落胆する気を紛らわすために、水を一口飲んだ。もう一度飲む。もう一度……何度でも飲む。
 胃の中が冷たくなった。
 突然涙が溢れた。食べる物がない、仕事もない、お金もない、何もない……。
 大声で泣いた。誰もいないのをいいことに、初めて声を出して泣いた。
 ここ数ヶ月の思いが、一気にあふれ出た。あの一夜の選択で、自分の人生がここまで変わるとは、正直思っていなかった。自分の考えが、かなり甘かったことを思い知らされた。
 全部リセットしてしまいたい……。
 何度も思った。だけど実際にはそれだけの勇気もなく、目まぐるしいスピードで毎日が過ぎていった。
 ピンポーン。
 インターフォンが鳴った。誰だろう。大家だろうか。慌てて涙を拭いて、玄関の覗き窓から確かめた。
「風間さん!!」
 すぐにロックとチェーンを解除する。
「おはようございます、眠れましたか? これ、朝ごはん……」
 風間は、到底朝ごはんだけとは思えないほどの量、レジ袋大2つを両手にかかえてやってきてくれた。
 袋からのぞいているのは、数々のパンやラーメン、そしてたくさんの飲料水……。
 差し出された袋を受け取る代わりに、風間に抱きついた。きつく、強く、腕に力を込めた。
「大丈夫ですか? ボスは心配していますよ」
 このまま……消えてしまえたら。
 人生をリセットできたら、どんなにいいだろう。
「大丈夫ですか?」
 優しく、頭を撫でてくれる。