「利子はなしにしてやる。ただ、利子分働きたいというのなら、それでもいい。そもそも、秘書検定も持っているんだろう? 悪い話じゃないと思うがな」
 そりゃそうだ。巽の近くでいれば、いつでも助けてもらえて、ころあいをみて、エレクトロニクスに戻してくれるかもしれない。
 強がってきた自分の中の弱い部分が一気に結集した。
「……いいのかな……」
 独り言のように呟いた。
「ここにいたって、借金は返せないぞ。お前が指名をとる限り水野のいいようにされるだけだ」
 想いもよらぬ巽の見方に、目を見開いた。水野に一生、飼われる……。
 それとも、ここで巽の腕にすがりながら店を出る?
「……ごめん」
 ただ一言言った。
 言いたいことが山ほどあったが、今はその言葉しか出て来なかった。
「ここから出られたら……。働く先は……自分で見つける。家に、東京マンションは……まだ帰りたくない。みんな、心配するし」
「ここに来てることは知らないのか?」
「ううん、知ってる。けど、……売り上げがあるっていうのを知ったら、安心したみたい」
「そうか……」
「なんか、こんな状態で一緒に住んだら気を遣うし……。だから、どっか住み込みで働いて……それで、お金はあなたにできるだけ振り込むから。それから……だから……」
「秘書が嫌でもエレクトロニクスでまた働けばいいだろ」
「……」
「一旦休め。そんなんじゃどこも雇ってくれない」
「……」
 たった数ヶ月といえど、莫大な借金を背負い、苦悩してきた疲れが今どっと出てくる。香月は涙をこらえきれずに、震える声で、素直に謝った。
「ごめんね……。あの日……けんかしたじゃん。紺野さんのことで。それでもまた、今日来てくれて、……正直びっくりした」
「いつもの駄々だろう?」
「……」