「遊び半分で人の女にちょっかい出すのは昔からだろ……」
「(笑)。いいじゃん、それで浮気したらそれまでなんだからさ。けどあの子は固いね。びくともしない」
「……」
「俺の名前がウィキペディアに載ってるって言ったら、すごいって感心するのに、資産家の息子だって言ったら、そんなのどうでもよさそうになる。なんだろうね、あの価値観」
「さあな……」
 としか、答えようがない。
「しかも、スカイで特別にデザート出したら文句言われた(笑)、酸味が効いてるケーキは嫌いって」
「……お前のことを何とも思っとらん証拠だろう」
「や、まあね、本気になられちゃっても困るんだけど」
 附和は軽く言ったが、今回は大して困らないだろうと、予想した。
「別れたって言ってたけど、ほんと?」
「……さあな……」
「え、うやむやなの?」
 一瞬、お猪口を口にする手が止まったが、強引に喉に流す。
「……」
「なにー、フられた??」
 附和は嬉しそうだ。
「どーせえ……電話もしない、メールもしない、会ってセックスするだけなんて嫌とか言われたんだ。誕生日にプレゼントしないとか、記念日忘れてる、とか」
「お前と俺は違う」
「いや、俺はそういうの大事にしてるからさ。忘れないわけ。プレゼントあげるのが恥ずかしくて誕生日忘れたふりなんて、まあ、誰かさんのしそうなことだね」
 そんなこと言ったことないはずなのに、附和は大体見抜いていた。
「……で、今日は何の用だ? わざわざ予定組んでやったんだ」
「まあ、難しい話はもう風間さんにしたからさ」
「?」
 何のことだと、顔を上げた。
「もう彼、仕事してると思うよ。まあ、仕事はいいじゃん、誰でもできるんだからさ。それより今から銀座のチック行かない?」
「断る」
「俺最近あそこにどれだけつぎ込んでるか(笑)。だけど、ナンバーワンになったら苛められるから嫌だって、最近酒空けさせないの(笑)」
「……向いてないんだよ、最初っから」