「あんた、本当に、知らないのか? それとも、知ってるのか?」
 四対はその大きな瞳で真っ直ぐ見つめ、静かに聞いてきた。
「俺は全く知らない」
「……あんたあいつの彼氏なんだろうよ!!」
「……」
 小僧に言われて内心ぎくりとしたが、もちろん顔色を変えない。
「そーゆーお前は」
 巽は、四対の手を振り払った。
「何なんだ?」
 巽の表情に四対は顔を背けて身を引いた。
「俺はただの友達だ……」
 といった四対の目が寂しげだったのは、もちろん分かっている。香月が、四対を選ばないのも分かる。だが、今の香月に必要なのは、四対だ……。そもそも、四対、香月、最上、千をめぐり合わせたのも、四対の財力である。
 今、自分が出る幕ではない……。
 附和もそう。わざわざアポをとって食事に行きたいというから、何のことかと思えば、香月がクラブで働いていることを伝えに来たようだった。
 附和とは父親たちとは違い、昔から因縁の仲である。といっても、性格が合わないだけで、それぞれの存在はずっと認め合ってきた。
「何年ぶりかなあ、こうやって2人で食事するの」
「……したことないだろ」
 料亭の個室で豪華な懐石を前に、それぞれ手酌をしながら、食べ始めた。
「そうだっけ? 昔のプールの話とか、俺は結構覚えてるんだけどね……」
「俺は忘れた」
 巽はマグロの刺身を口にしながら眉間に皺を寄せた。
「一体何だ、突然呼び出したりして」
「人聞きが悪いなあ。呼び出すだなんて。いや、先週チックに寄って来たんだけどね」
「……」
 香月が働いていることを、附和も既に知っていたことに驚く。
「元気そうだったよ……。俺が金返すって言っても、頑なに断った」
「前例があるからだろう」
 頬にキスのことを今更切り出す自分も、どうかしていると分かっていたが、言い出さずにはいられなかった。
「なんだ、知ってたの?」
 附和は得意気に笑って見せた。