「そしたらどうせ何か要求するでしょ? あ、そういえば、だいぶ前の話ですけど、新国際ホテルの盗撮の件、知ってます?」
「あーあれね。回収したよ。知ってたんだ」
「はい、丁度……警察に知り合いがいて、映像に映ってたって。データは漏れてないんですか?」
「大丈夫、大丈夫、この件は終わったから」
「そうなんですか……」
 附和は何も飲んでいない。グラスの中の酒は減らず、香月はすることがなくなった。
「おいでよ、俺んちに。そうか、マンション借りてあげてもいいし」
「いいです(笑)」
「でも、ということは、巽と完全に別れたんだね」
「けど、別れた後のことでよかったんです。もし、付き合ってる時にこんな話しが出てきたら、絶対お金借りてました」
「このことで別れたんじゃないんだね」
「はい……ああそう。新国際ホテルのデータの件でけんかしたんですよ。それで……。私が飛び出したんです」
「そっか」
 附和はもちろん謝らない。自分が悪いとは思っていないのだ。
「売り上げ結構あるんじゃない?」
「まだまだですよ。まだ3ヶ月しかたってないし。その……世話してくれてる人が、大物捕まえればすぐ二千万なんて返せるっていうけど……なんか、そこまで豪腕になれない、というか」
「はは、そうだね。酒飲みに来てるのに、禁酒を勧めそう(笑)」
「……向いてないんでしょうね」
「うん、向いてるとはあんまり思わない」
「はっきり言われるとさすがに落ち込みます」
「あそう? ごめんね」
 ただ、自分の今を明かせた唯一の存在であった。いつも突然現れて、にこにこ近づいてくる附和。自分たちは密かに知り合いから友達に代わろうとしているのかもしれない、とまで思った。
 ただそんな淡い思いも長くは続かなかった。3カ月が終わり、ただの新人ホステスが売り上げナンバー4にまでなった時、店内の空気が一変した。
 碌な人付き合いをしないのにかなりの成績を出している香月に対して、店は穏やかではなくなった。売り上げを一気に抜かれてしまったお姉様方は、次々と悪事を仕掛けてくるようになる。