考えようとしてやめた。彼はお助けマンではない。大好きで、とても大切だった、過去の彼氏のうちの一人なのだ。
 もう一度マンションにより、荷物を取る。そして、既に連絡をつけてあったユーリと、カフェで落ち合った。丁度レイジと一緒に仕事をしていたらしく、彼もついてきてくれた。
 目の前に2人がいて、ただお茶を飲む。
 それだけのことが、一体どれほど幸せだったのか、言葉に表せなくて、ただ静かに涙を流した。
 2人はとても驚き、心配したが、事情があってこれから銀座で生きていくこと、もうマンションには帰らないことを伝えた。
 レイジは何度も理由を聞いた。黙っていると、金なら用意すると言ってくれた。
 だけどレイジに借りた金だって、いつかは返さないといけない。それなら、知らない人に借りた方がずっとマシだった。
 香月はただ、大丈夫とありがとうを繰り返した。二千万も借金があるなど、到底言えなかった。一人で背負いたかった。また、そうすることが、最上への礼儀でもあるような気がした。
 新しい携帯番号だけはなんとか教え、泣く泣く2人と別れた後、クラブの面接に行った。よくテレビで見るような、着物の中年のやけに綺麗な女の人にいくつか話しを聞かれ、正直に答えた。借金のこと、これからの目標、今までの接客。有名店を支えているだけあって、もちろんちゃんとした人だった。そう評価できる人に、評価され、店に入ることを許されたのだが、それと同時に、売り上げ、ノルマ、借金返済、生活……、全ての物が自分に降りかかり、それを処理する能力を上げなければならないことを知った。
「私、できるかな……」
 一晩働いた朝方、水野に小さく漏らした。
「やらなきゃ生きていけないよ」
 水野の言葉は厳しくて正しい。今まで巽にだだをこねて、拗ねて、ディナーを食べさせてもらい、スゥィートに連泊していた自分のことが信じられなくなった。