二千万……。
 簡単に肩代わりしたものの、ひしひしとその重みがのしかかってくる。
 水野が簡単に着替えをする後ろ姿を見て、とっさに口に出す。
「あの、今日はどこで泊まったら……」
 早くワンルームを紹介してもらいたい。だが水野は簡単に、
「ここ」
「……あの、ずっとですか?」
「嫌なら出てけば? けどそんな金も惜しいんじゃない?
 とにかく今は、エレクトロニクスの退職金と、家財道具を売った金を足しにして。あとは、ここで時々相手するって言うんなら、ただで置いてやってもいい」
 絶望的な条件だが、今の自分には好条件、ととるべきなのだろうか。
「……」
 答えは出ない。
 答えなど、出せるはずがない。
 だが、深く考えても、何を考えても同じこと。早く、二千万を返す以外に方法はない。
 とりあえず、朝は辞表を出しに行こう……。
 時刻は午前10時、出社時刻はとっくに過ぎている。だけどもう、辞表を出すんだ、関係ない。
 落ち着いて外へ出る準備をし、一度東京マンションで着替えてから、出勤した。田中部長と話しをしよう……そう思って来た日に限って、出張でいなく、結局、なにやらでバタバタしている宮下をどうにかつかまえて、会議室で話しを切り出した。
 急な退職の話しに、宮下はかなり驚いたが、意外にも詳しいことは聞かなかった。それもそうだ、大した仕事をしているわけじゃないし、代わりはいくらでもいる。
 退社した後は、ショップで新しい携帯を買い、今まで使っていた携帯はデータを全て消去してもらった。
 これでもう、二度と誰からも連絡が入ることはない。
 決心してそうしたはずなのに、店から出ると、かなり落ち込んだ。
 今は水野しか信じる人がいない上に、体を要求され、仕事に放り込まれる。
 ……巽がいたら……。