千くらいの人物になれば、外国の大学に行きながら結婚するというのも金銭的には十分ありだが、逆に、それほどの人物がバツイチ子持ちの女を相手にするとなれば、家の中はごった返すはずだ。
 伊豆旅行の日から結果、3週間近く最上とは連絡を取りそびれていたので、今、自分がアドバイスできるのがどんなことなのか的確には分からないが、先に色々考えておいた方がいい。
 同時に四対のことも思い出す。あれから週に一度くらいは連絡が入っている。千のことももう少し聞いておけば良かったな、と今更無駄話のために電話をしていることを後悔した。
 24時間カフェは深夜1時半の割りに、想像以上に人がいて驚いた。にぎやかに花咲いているテーブルもある。
 禁煙席を一通り見たが、いない。まだ来てないのだろうか。
「先輩」
 後ろから声がして振り返った。最上は、普段よりお洒落をしていることがわかる、スカート姿だった。
「今来たとこ?」
「あっちです。席」
 禁煙席が空いているのにも関わらず、喫煙席で既にコーヒーを飲んでいる理由……。
 最上と対面して腰掛けていた男は、こちらを嘗め回すように見た後、軽く会釈した。もちろん千ではない。もっと年がいっている。にしても、千の父親にも見えないし、兄……だろうか。インテリメガネに、かっちりしたスーツを着こなしている30半ばの男であった。
 香月は戸惑いながらも、最上に促され、彼女の隣に腰掛けた。
「あの、すみません。四対さんと連絡をとってほしいんです」
 最初に彼女の口から出たのは、予想を遥かに上回る、突拍子もないお願いであった。
「えっ……?」
 俯いてこちらを見ない最上を置いて、メガネの男を見た。
「私、こういう者です」