言い終わる前に抱き着いた。
 世界が終わってもいいと思えた。
 自分の人生が、狂ってもいいと思った。
 きつく、きつく抱きしめる。
「ドレス着たい」
 顔を埋めたまま香月は言った。
「式はパリでいいか?」
「パリ!?」
 予想もしなかった巽の意見に、香月は目を見開いて顔を緩ませた。
「一度しかする気はない。お前の好きなようにすればいい」
 もう一度巽を抱きしめた。強く、強く。
「覚悟しておけ。他の誰かに身体を触れさせるようなことがあれば、全力で追い込むからな」
 目が本気なのに笑えた。
「指輪欲しい、結婚指輪がいい」
「ああ」
「3回お色直ししたい」
「ああ」
「それから、それから、披露宴もパリでしたい」
「ああ」
「みんなが来れるように、旅費は出したい」
「ああ」
「……それで、それから……ごめん、式のことばっかりだね……」
「別に。俺はお前の身体さえあれば、それで充分だからな」
「なんかそれ、いやらしく聞こえない?」
 香月は冗談交じりで言ったが、巽は真顔で切り返した。
「お前が捨身になれないように、俺が繋ぎ止めておいてやる。
 いいか、もうそいつらともあまり深くかかわるな」