「彼氏に結婚しないって言われた時、子供だけ先に欲しいって言ったら、それもダメだって言われて。なんか、結局八つ当たりみたいにしたの」
 実際はそれに寸分も違わない。
 香月は軽く言ったつもりで少し笑ったが、2人の表情は唖然としていた。
「……そんな……」
 西野もそこで止まっている。
「その後、色々あって。結婚しようってなったんだけどね、やっぱりまだ踏み切れなくて」
「そりゃそうだよ」
 西野はこちらをじっと見て頷いた。そこに、必要以上に力が籠っている気がして、怖くてすぐに目を逸らした。
「先輩、代理出産にしませんか?」
 久しい言葉が出たが、それが佐伯の口からで、しかも自らの身体を犠牲にしようとしているのではないかという不安から、思考が前に進まなかった。
「私の産んだ子、養子にするとか」
 最後に「とか」という言葉をつけたせいで随分軽く聞こえた。
「先輩がもし望んでるんなら、ってことです」
 佐伯はこちらの目をしっかりと見つめてきた。
「ちょっと待ってよ、全然、話が見えないよ……」
 香月は視線を彷徨わせながら、なんとか返事をした。
「彼氏にも聞いてみてください。産んですぐなら大丈夫です。母親の匂いってありますけど、産んですぐなら分かりません。母乳も出なくても、ミルクでも大丈夫です」
「…………」
 あまりに現実的な話に、言葉が出ない。
「悪いな、けど、思いつきで言ってるわけじゃないから……」
 西野はフォローしたが、
「私は本気です。私が産んで、先輩が養子にする。全然、変なことじゃありません」
「待てよ、香月の意思が先だろ?」
 西野はきつく言ったが、佐伯は聞かなかった。
「私は、ほんと、育てる自信がありません……」
 大きな涙をこぼしながら、じっとこちらを見つめられて、懇願された。
「お願いです。養子の話、考えてみてください」