「いない」
「やっぱねえ……子持ちだしねえ……」
「子持ちというよりは、人間性に問題がある」
「いや、最初は普通の子だったんだよ!? けど……千さんに会ってから……いや、旦那さんに浮気されてから変わっちゃったんだよ……。まだ若いし……。まあ確かに、お金持ちがいいって言ってるのも人間性に問題があるのかもしれないけど、前の結婚が大変だったみたいだから、それも仕方ないのかもしれない……」
「附和辺りなら、構ってはくれるだろうが」
 思いもよらない現実的な名前が出たが、香月は顔を顰めた。
「あ゛―……あの人、本当性格悪いよね、信じらんない……」
「近寄らない方が身のためだ」
「なんか本当に分かる気がする。最後に会った時、妙に怒ってたしなあ……」
「そっちがいつもの附和だ。お前に……女に見せているのは、表面だ」
「えー!? 最悪。なんか調子いいのよねえー」
 ふん、と溜め息をついたところに着信音が聞こえた。
「あれ……ユーリさんだ……はい」
 まあどうせ、なんでもないことだろうと、簡単に出た。
『今どこ!?』 
 ところが、慌てている様子だ。その顔がすぐに浮かぶ。だが、どうせ大したことではないだろうと、笑いながら
「彼氏んとこ」
『どこって!!』
「どこって……新東京マンションだけど?」
『今すぐ来れる!? 今桜美院なんやけど、佐伯さんが急に出血したゆーて!!』
「えっ!? 何で!?」
『妊娠してたって!!』
「ええー!?」
 思わず巽の顔を見た。彼も眉をひそめてこちらを見ている。
「えっ、えっ……」
『今手術してる』