「本当に……時々お前が信じられなくなる」
「へ?」
 珍しい、というか、聞いたことがない。巽がこんな風に弱音的な言葉を吐くことなど。
 現在午前11時。東京マンションのエントランスで香月を乗せ、一通り前回ディナーを途中放棄したことの謝罪やらその後の電話にすんなり出てくれたことの感謝やらを聞いた後、巽は一言吐いたのだった。
「な、にが」
 それは一体どういう意味ですか?
「附和のことといい、紺野のことといい……」
「え、何? 浮気してるかもしれないってことが言いたいの? けどだから……」
「いや、そうじゃない。それをしないことは分かっている」
「じゃあ何?」
「一体お前は、男相手に危険を感じるたび、どれだけ拒否をしているのかということだ」
「えー?? ……まあでも普通にしてると思うけどね。何? カラテとか習えって意味?」
「そういうことじゃない」
「じゃあ何?」
 香月は詰め寄って聞いた。
「危機感を察知するのが下手なのか……」
「あー……。なんというか。疑い始めたら、怖くてもうダメだと思う。だから楽観的に考えるようにはしてる。例えば、今日食事行こうって誘われた場合、うんって答えなきゃって思う。何故って、もしそこで否定したら、心の中で、あの人は絶対食事の後ホテルに連れ込むんだっていうこう、……悲観から逃れられなくなって、絶対苦しいから」
「悲観?」
「悲観……じゃないかもしれないけどぉ……。なんていうか……。
 ほらさ、昔、監禁とかされたじゃん……あのことを思い出すと、もうなんか全部ダメで嫌って思うの。けど、本当はそうじゃないじゃない。皆ただ食事に行きたいと思ってるだけかもしれないし、ただの時間つぶしかもしれないし。だから……もう……だから……そう考えると怖いから。あの人もこの人も……って思うと怖いから、この人はそうじゃないはず! と思うようにはしてる……かな」
 思っていることを口にしただけなので、どれほども伝わったとは思わなかったが、巽はちゃんと返事をした。
「……どっちがいいんだかな……」