巽は少し怒る。
「えー……あ、そう……うん、明日有給出すよ。休む。え、どうしよう……どうする?」
「何が?」
「ホテル……、待って、ロンドンじゃないところにしよう。えーと、どこがいいかな……オーストリアとか?」
「どうして?」
「えー……、まあ、ロンドンが好きなんだけど、その……あなたと行くなら、ロンドンじゃない方がいい。えーと、えーとねえ……」
「どういう意味だ??」
 珍しく巽は繰り返した。
「え……うーん、早い話がぁ……昔の……あ、だから、桜美院の医者に会ったことあるじゃん、長髪の」
「ああ」
「あの人にぃ……会うために行ってたロンドンだから。その……思い出が強すぎるかな……」
「………」
「とかね……。えー……どうしよう……どこがいいかな……えーどうしよう……」
「………」
 以後、巽は喋らなくなってしまう。
「えー、待って。今は怒ってんの? スネてんの?」
「……」
「なんで喋んないのー!! 喋ってよ……、何? ロンドンの話したのがいけなかった? けど昔の話だよ?? 今の話じゃないし……、そりゃ、今も時々何かと会ったりするけど、最近は全然音信不通だし……」
「家で1人でゆっくりするか……」
 その、挑発的な言葉に、