「ホテルは偶然。食事には行った。そこで私が飲みすぎたから側の新国際ホテルに泊まっただけ。私の意志です。附和さんは関係ない」
『……どうして自宅に帰らなかった?』
「だからそれは……附和さんが電話番号をもってきてくれることになってたから。だから自宅教えるの嫌だったし!」
『電話でも済むんじゃ?』
「その時は……それどころじゃなくってね。とにかく電話が繋がらないし、私はてっきり別れたいって意味なのかと思って、だからその……もういろいろ考えてる暇がなくて……。けど絶対附和さんとは何もない。絶対、絶対」
『……まあ、いいだろう』
「……けど、良かったー。とにかく、あなたが怒って携帯変えたんじゃなくて。もうとりあえずそれだけが心配だったの!!」
『怒って携帯の番号を変えるという発想がまずないな』
「えー、そう? 世の中じゃ結構あることだと思うよ?」
『そんな発想してるからくだらないことに振り回されたりするんだ』
「そんなことないよ!! どんな発想をするかは、その人によるんです」
『ああそうか……。なんだか少し、怒りが湧き上がってくるな』
「何、私を脅してるの?」
『いや……。まあ、お前が附和にそそのかされてその国際ホテルに泊まり、朝まで一緒にいることを約束にその新しい電話番号とやらを教えてもらうということがあったとしても、今回は、というか今回も、知らん顔をしておいてやろう』
「誓います、絶対附和さんとはしてない。自分で言ってた。もう年だから性欲ないって」
『……』
「それよりこの電話番号よね……」
『もう忘れろ。どうせ附和の仕業だ』
「そんなことないと思うんだけどなあ」
『附和の肩をかつぐならそれでもいいさ』
「そういう意味じゃなくってね。もし、電話番号が変わってないんだとしたら、やっぱりあの時繋がらなかったのは偶然としか考えることができない」
『……ならそうじゃないのか』
「よねえ」
『……午後から仕事だ。もう切るぞ』
「あ、うん。ごめん」