「断る」
　四対財閥の長男を目の前にして、久しぶりにまともに食事を嗜むことにした。場所は、船場吉兆。とにかく、お金を持っている人しか入れない超高級料亭だが、ここへは既に、常連並みに通っていると言っても過言ではない。
「……え……なんで?」
　今日は実は回転寿司が食べたかったのだが、親密な話しがしたかったので、半ば仕方なくここを指定した。その内容とは、
「佐伯に……誰か紹介してあげてほしいなあ……」
　ともまあ、なんとなく風に出した一言に全てをかけていたのだが、四対はいとも簡単に、全てを無駄にするように、「断る」と吐いたのである。
「俺の知り合いで、あの女に合う奴はいない」
　既にほとんど食事をした後なので、少々不機嫌になられても構わない塩梅ではある。
「……そっか……」
　そういわれればそれまで。……仕方ない。
「子供もいるしね……」
「というか、千の女だったって知ってて紹介するわけがない」
「あ、そうだね……」
「そもそも俺、あの女のことはよく知らないし」
「……そうなの?」
「ああ」
　というか、よく知ろうとは思ってないらしい。
「……じゃあ、私の会社のいい人紹介してあげようかな……」
「というか、もう新しいのがいいのかよ」
　彼は真っ直ぐ大きな瞳で私を睨んだ。
「……別に、結婚とかしなくてもさ……ちょっと支えになってくれる人がいるのといないのって全然違うよ?」
「その支えを紹介するのかよ?」
「……いないより全然いいよ」
「そんなもんかね」
　四対は溜息を吐いた。