「そうかなあ……」
 香月はオレンジジュースを一口飲んだ。
「あ、でね。そのアップルパイの時、リンゴの皮の紅茶も一緒に持っていったら、そう言われた。まずい紅茶だって」
「味見してないんでしょ?」
「したけど、それが美味しいのかまずいのかは、分からない」
「普段一級品のリンゴ食べてる人に、豚が食べるスーパーのリンゴの皮だなんて(笑)」
「だってぇ……」
 香月は反省しながらテレビを見た。何か知らないアニメのキャラクターが踊っている。
「先輩は結婚しないんですか?」
「しないかなあ……。結婚しようって言われたけど、踏み切れないまま」
「何で!?」
「なんか……ここで結婚したら、私、この人のためにご飯とか作って、帰りを待つってできるのかなあとか思ったら……」
「そんなこと言ってたら、いつまでたっても独身ですよ!! 思い切ってすればいいじゃないですか!!」
「うーん……思い切れない」
「年とるとそうなるんですよねえ……。相手がダメなんじゃないですか?」
「うーん、そうかなあ……」
「四対さんにすればいいのに」
「何で? あの人彼女いるし」
「そんな彼女なんて、いつもいたりいなかったりの、その場しのぎのなんかでしょう!?」
「……さあ……」
「四対さんだったら大事にしてくれますよ。……幸せになれると思うけどなあ……」
 佐伯のそのセリフには、心が篭っていた。
「……幸せってどんなの?」
「その人によって違うけど。子供を大事にしてくれる人がいいとか、私を大事にしてくれる人がいいとか。出世してくれる人がいいとか」
「えー??」
「妻子供を大事にして出世する人なんか、なかなかいないんですよ!! 普通の人は。香月先輩の彼氏も、四対さんも普通とはちょっと違うから、いいかもしれないけど。家政婦とか雇えるし」