空は曇っている。今日の天気予報はどうだか知らない。
 香月は溜め息をつきながら、もう一度空を見渡した。今の自分の心を忠実に再現している空模様には違いない。
 昨夜、今井の家から帰る途中、タクシーの中で四対から電話がかかってきた。
 とにかく、何も用意していなかったので、出る前に3秒考えたが、それでも大して思いつかなかったのだから仕方ない。
「……はい」
『あ、もしもし? わりぃ、会食が長引いてさ』
 あー、仕事かあ……。
「いや、あ、ごめん。忙しいよね……」
『んー、まあ。何? あ、オーストラリア、まだあいつらに聞いてねえや』
「ううん、それはまあもういいんだけどさ」
『うん、何? 用ないけどかけただけ?』
「いやー……あの、うーんと、甘い物とか好きかな、好きだよね?」
『え、まあ。また伊吹行きたいか?』
「いや、その、例えば洋菓子とかは好きなの?」
『うん、どっちでも』
「その、明日、アップルパイ作るからさ、その、食べてもらおうかなっとか」
『おおー、いいねえ!! 食う、食う』
「えっとぉ……時間とか、いつ暇?」
『明日……? ちょい待てよ』
 後ろで男の人の声がした。秘書だろうか。
「……昼とか、忙しいよね……」
『2時~3時なら』
「2時、3時……」
『中央公園の近くに新しい店ができたからそこ行ってるけど、多分時間ができると思う。飯でも行くか?』
 そんな時間に食事……しかも、忙しいし、第一用ないし……。
「ううん、じゃあ、あの、渡すだけ……にしようか」
『食う時間くらいあるよ』
 四対は笑った。